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成瀬医院

 


そよかぜ通信
 

Vol.2  No.7 (ver.2)
2000年10月13日

 

発行:成瀬医院  成瀬 清子

東京都杉並区清水 2-11-12

tel 03-5311-5133

 

 


目 次

ポリオ予防接種について

昭和50年から52年に生まれた方は要注意

次号の予定は


ポリオ予防接種について

 現在は、秋のポリオ予防接種の時期です。今年の春、ポリオワクチン接種後、無菌性髄膜炎の後に下肢麻痺(1歳男児)及び急性脳症(3歳女児)が発生したため、その後の接種を中止しました。秋に再開しましたが、色々な面で心配されている方もおられると思いますので、少々遅くなりましたがポリオについてお知らせします。

 わが国では毎年約240万人がポリオワクチンの接種を受け、接種者における下肢麻痺等の麻痺患者の発生率は、約440万人当たり1人とされています。しかし実際には、ポリオワクチンの接種が1961年に開始されて以降これまでに、無菌性髄膜炎や急性脳症の発生は、今回報告された2例以外には報告されていません。また、今回の例も、急性脳症例は当初から因果関係は薄いとされていましたが、下肢麻痺例も経過中、便から1度もポリオウィルスが検出されず、10月9日、麻痺は別のウィルスによると結論づけられました。

 ポリオは、ポリオウイルスがせき髄の神経細胞に感染して、腕や足が麻痺する伝染病です。ポリオに感染した人の便中にポリオウイルスが排泄され、これが口に入ることによって感染します。感染すると、9割以上の人は症状は出ず免疫ができますが、1割程度の人はカゼ様の症状を呈し、まれに(0.1-0.5%)重症になる人もいます。1950年代には年間1万人以上の発症がみられましたが、予防接種のおかげで1971年の発症を最後に、現在、日本では通常の感染によるポリオはなくなり、海外から入る場合とワクチン由来のものだけになっています。ワクチン由来とはどういうことでしょう。

 今行われているポリオの予防接種は注射ではなく、弱毒化(病気になる力を弱めた)ウイルス(生ワクチン)を口から飲み、飲んだウイルスが腸内で増殖し免疫を作ります。接種による麻痺の発症は、前述の通り可能性はあるのですが国内での報告はありません。一方、腸内で増えたウイルスは便と共に体外に排泄されて人から人へとうつっていく間に、弱めた毒性があともどりして強い力を持つようになり、感染者に麻痺を起こす可能性があります。日本では、ポリオの予防接種をした乳幼児から免疫を持っていない家族が感染し、麻痺をおこす可能性は、接種約500万回に1人となっていますので、計算上2年に一人発症することになります。自然感染がないのに、ワクチンで麻痺が出る事があるのなら、予防接種を止めたら良いように思いますがそうもいきません。発展途上国にはポリオが常在している国も多く、人の交流の盛んな昨今、外国から入ってくる可能性があるからです。

 先進国はどこも似たような状況で、アメリカではポリオの自然発症がなくなったため、昨年から生ワクチンの経口投与と不活化ワクチンの注射を選択出来るようになりました。不活化ワクチンでは感染する心配はありませんが、抗体(免疫)を作る力が弱いため、三種混合や日本脳炎の予防接種と同様、繰り返し注射をする必要があります。痛い注射は子供にとっては今より負担になりますが、不必要な感染は避けなくてはなりません。アメリカでは注射だけになるようですし、日本でもその時期が来たと言われており、近々注射に変わるものと思われます。 さて、実際に予防接種を受ける場合の事ですが、37.5度以上の熱があるときは受けられませんが、軽い咳や鼻水は問題ありません。ただし、下痢をしている場合はせっかく飲んでも腸内で増えないことがあります。感染する心配のほとんどない病気ですので、無理をせず次の機会を待ちましょう。口に入れて直ぐよだれが出てしまっても、10分の1入れば増えます。30分以内に胃の中身を全部吐いてしまったのでなければ、まず大丈夫でしょう。

 ポリオの予防接種が始まったのは1961年ですので、それ以前に生まれた人は、ワクチンを飲んでいません。これらの人の抗体保有率のデータを私は知りませんが、1950年代まで毎年4桁の数の患者が発生し、1959−60年にかけ大流行していますので、1960年以前は、毎年何百万人が感染(軽い風邪症状で済んだかウイルスに感染したけれど発症しない不顕性感染)していた計算になります。その結果、多くの人が抗体を持っていると思われますが、大流行したということは、免疫のない人も相当数いるわけです。便から感染する可能性があるので、ワクチン接種後はおむつの取り扱い、手洗い等にいつも以上に気をつけて下さい。

 

昭和50年から52年に生まれた方は要注意

 さらに、国の調査により、昭和50年から52年に生まれた方は、他の年齢層に比べてポリオの免疫を保有している方の割合が低いことがわかりました。ポリオには3つの型があるので、ワクチンには3つの型のウイルスがはいっています。ワクチン接種者の抗体保有率は通常3型共に90%前後ありますが、この年齢層の方については、I型の種類の抗体保有率のみやや低いのです(昭和50年生56.8%、昭和51年生37.0%、昭和52年生63.8%)。昭和50年から52年に生まれの方のお子さんが予防接種を受けられる場合は、特に便の取り扱いに注意しましょう。また、この年齢層の方ががポリオ常在国(東南・南アジア、中近東、中央・西アフリカなど)へ渡航する場合は追加接種をお勧めします。家族の方が予防接種を受けられる場合にも追加接種を勧めている自治体もあります。ただ、今まで3つの型のどれかの免疫を有している方が、他の型のポリオに感染して重症になった例はありません。この年齢層の方でも、小さい時にワクチンを接種していれば、あまり心配することはないでしょう。反対に、追加接種は家庭内にワクチン未接種の乳幼児などがいる場合には注意が必要です。

 ポリオ常在国に渡航される場合は、他の年齢層の方でも追加接種をしたほうが良い場合があります。抗体を持っているかを調べる検査も可能ですので、御希望の方は御相談下さい。

 

次号の予定は

 1ページで終わらせるつもりでしたのに、書き出すと長くなってしまいます。今回はポリオの事だけになってしまい、関係ないと思われる方も多かったことでしょう。次回は、検査データをみるときの注意をお知らせする予定です。また、インフルエンザについては、刻々と状況が変わるので別にお知らせします。

 


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