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成瀬医院

 


そよかぜ通信
 

Vol.2  号外2 (ver.2)
2000年10月17日

 

発行:成瀬医院  成瀬 清子

東京都杉並区清水 2-11-12

tel 03-5311-5133

 

 


目 次

インフルエンザの予防接種を開始しました

予防接種は重症化を防ぎます(接種を特にお勧めしたい方)

大人は原則1回でOK

接種の時期は

接種を受けてはいけない人は ・・・卵アレルーギーは大丈夫?

子供のインフルエンザにバファリンは使用禁です


インフルエンザの予防接種を開始しました

 インフルエンザのワクチンが入荷しましたので、予防接種を開始しました。今年流行が予想される型は以前の型と大きな変化はないため、前にもお伝えしているように、大人は1回で免疫がつくと考えられますが、子供は基礎免疫がないので2回注射が必要です。抗体(免疫)が充分できるまでには、注射後3−4週かかり約5ヶ月持続しますので、今から始めて早すぎることはありません。現在、既に200人以上の予約が入っておりますが、予約時、接種の時期は9月中に予約された方はワクチンが入り次第開始、10月に予約された方には11月になってからとお伝えしました。患者さんの数は予想がつきませんので、空いている時は予約の時期に拘わらず、どんどん進めていきたいと思います。予約された方のワクチンは必ず確保しておきますので、必ずしも予約の順には行いませんが、集中してしまった場合は、予約の遅い方は遅らせていただくことがあるかもしれません。また、通常の診療にあまり支障を来さぬように、夕方の診療のある月、火、木曜は3時半から4時の間も予防接種のみ行います。4時以降は、診察の方との順番を調整しながら行いますので、これらの点をよろしく御了承下さい。混雑を防ぐため、あらかじめ問診票をお渡ししておりますので、御記入の上お越し下さい。ただし、体温は直前に当院で測らせていただきます。

 

予防接種は重症化を防ぎます(接種を特にお勧めしたい方)

 インフルエンザの予防接種はたとえ充分抗体ができても、残念ながら必ずしもインフルエンザに罹ることを防いではくれません。2−3割の人は発病してしまいます。予防接種の一番の目的は重症になるのを防ぐことです。

 そこで、特に予防接種をお勧めしたいのは、罹ったときに重症化しやすい方です。アメリカの指針を例にとると「インフルエンザの合併症のリスクの高い(ハイリスク)、生後6ヶ月以降のすべての年齢層の人。さらに、これらの人たちの世話する人、家族を含めた、これらの人と身近に接する人。」となっています。ハイリスクの人とは具体的には、1)50歳以上の人、2)老人施設や慢性疾患を持った人がいる施設の入所者、3)喘息を含めた慢性呼吸器疾患を持つ人、慢性心血管系の病気を持つ人、4)糖尿病を含めた慢性代謝性疾患、腎機能不全のため、この1年の間に定期的に通院したり入院した人、5)6ヶ月から18歳で、長期間アスピリンを内服している人。(アスピリンに関しては後述します。)6)インフルエンザのシーズンに妊娠5−10ヶ月になる人としています。

 さらに、ハイリスクの人にインフルエンザをうつす可能性があるグループとして、医者、看護婦その他の医療関係者、老人施設やハイリスクの人が暮らす施設の職員、ハイリスクの人のホームヘルパーや家族を挙げています。

 少し、補足説明をしましょう。50歳は高齢者とは言えませんよね。昨年までは、65歳でした。しかし、50歳以上の24−32%が慢性疾患を持っており、これらの人は持っていない人に比べ、インフルエンザに罹ったときの入院率、死亡率が高い事がわかっており、慢性疾患を選び出すより、50歳以上をすべて対象にしたほうが効率が良いと考えた、政府の戦略です。アメリカらしいなあと思います。本年度の私の推奨は、65歳以上とします。

 慢性心血管系疾患、慢性代謝性疾患この表現にどこまで含まれるか、医師の私にもよくわかりません。一般には、上記の疾患に高血圧も高コレステロール血症も含まれますが、前述の24−32%にこれらが入っているのか私にはわかりません。個々の方で御相談いたしましょう。

 妊婦さん。日本では対象外です。御存知のように、日本では接種を推奨する対象は決められていません(来年度から65歳以上が対象になります。)。ここで言う対象外とは、発熱者と同様にしないことになっているという意味です。しかし、奨励対象を決めている先進諸国の多くは、妊婦を強く勧める対象としています。アメリカで推奨する理由は、インフルエンザが大流行した年は通常の年より妊婦の死亡率(これを超過死亡率といいます)が高いことや、妊婦は脈拍、心臓から送り出される血液量、酸素消費量がいずれも増加しており、肺の容積は減ることからインフルエンザにより重篤な合併症を起こしやすいと報告され、事実、妊婦はインフルエンザに罹ると入院する率が非妊婦に比べ高いからです。胎児への影響はどうでしょうか。インフルエンザワクチンは不活化ワクチン(死んだウイルスを使ったワクチン)なので、多くの専門家は妊娠中のどの時期に接種しても安全と考えており、2000人を超える妊婦を対象とした研究では、胎児に影響はありませんでした。しかし、妊娠期間中のワクチンの安全性の確率にはもっと多くのデータが必要としています。そして、一部の専門家は、自然流産の多い妊娠初期3ヶ月は接種をさけているそうです。

 このように、妊婦への安全性は完全には立証されていないことを認識したうえで、インフルエンザに罹患した時の危険度の方が高ければ強く推奨する対象とする。これがアメリカの方針です。薬の副作用に関する通信でも書きましたが、このように医療の選択は完全に安全だから勧めるのではなく、その時点、時点で、より有利と判断されるものを選んでいるのです。日本では安全性が確率していないので、妊婦は対象外にしておいたほうが無難だということです。

 多くのインフルエンザの国際会議等に出席され、私にたくさんの資料を提供して下さる川崎市立川崎病院の武内先生は、任意で妊婦さんに接種を行っていらっしゃいます。私もご希望があれば行いたいと思います。ちなみに、A型インフルエンザの特効薬のシンメトレルは妊婦さんには使えません。インフルエンザワクチンは授乳には全く影響しません。

 以上は、アメリカで国として強く接種を勧める対象ですが、それ以外の人でも、6ヶ月以降のすべての年齢層で、発症率を低下させ、発病した場合も高熱が出にくく、入院率低下、仕事を休まなくてはならない期間が短くなる等の効果があるといっています。

 お気付きかと思いますが、私が勧めている乳幼児がアメリカの推奨対象にはいっていません。健康な乳幼児(1−4歳)がインフルエンザに罹った時の入院率は、健康な小児や大人の場合の2.5−5倍というデータは示しており、脳症を防ぐ可能性があるので現在検討中という文章を読んだ気がするのですが、はっきりしません。一方、予防接種により乳幼児の超過死亡が明らかに減少したという、とてもきれいな日本のデータが、近くアメリカの一流誌に発表されます。私は、自分なりに資料を検討した結果、小さいお子さんに接種をお勧めしたいと思います。

 

大人は原則1回でOK

 御質問の多い接種回数につき、もう少し詳しく説明します。

一般に、感染力の強いウイルスが身体に入る(ウイルスの病気にかかったり生ワクチンを接種した場合)と、通常充分な抗体(免疫が)できます。感染力のない不活化ワクチンを接種した場合は1回の接種では抗体はできませんが、からだが情報を記憶していて、繰り返し接種することで充分な抗体ができます。

 インフルエンザウィルスは毎年少しずつ型が変化するので、以前罹っていてもその時できた抗体は型が違うため感染を防いでくれず、また罹ってしまいます。ただし、以前の型の抗体がある(基礎免疫のある)人は予防接種をすると、少しの型の変化なら反応して1回の注射で新しい型の抗体を作ります。この辺が免疫反応の面白い所です。大人の場合、インフルエンザに罹ったり予防接種をしたことがなくても、知らず知らず少しずつ感染して抗体ができているので、1回でOKです。(そよかぜ通信の前号は訂正します。)アメリカの指針では、大人では2回目の接種で抗対価の上昇は認められないとはっきり明言しています。

 ただし、日本では1回ないし2回となっていますので、万全を期したいに方は御希望に応じ2回致します。ワクチンの必要量を知る必要があるので、2回御希望の方は予約の際お申しで下さい。お申し出のない場合は、1回とさせていただきます。

 

接種の時期は

 2回法の場合、2回目の接種は日本では1−4週後、アメリカでは4週以降とされていますが、4週空けた方がよく反応してたくさん抗体ができます。そして、2回目からさらに3−4週で抗体が一番多くなり、3−4ヶ月高値を維持した後、徐々に下がります。インフルエンザが大流行するのは通常1−2月ですが、12月初め頃から出始め、徐々に広がっていくので、12月に罹ってしまう可能性もあります。2回法の場合は一回目を10月中に済ますのが理想ですし、1回法でも10月で早すぎることはありません。早めに接種を済ませましょう。

 

接種を受けてはいけない人は
・・・卵アレルーギーは大丈夫?

 アメリカの指針では、受けてはいけないとされるのは卵や他のワクチンに含まれる成分に強いアレルギーのある人と、発熱している人だけです。

 強いアレルギーとは、卵を食べるとアトピー性皮膚炎がひどくなるというようなものは含まず、アナフィラキシー反応といって、蕁麻疹や喘息等が短時間(通常摂取後30分以内)に起る反応です。卵を食べて直ぐに唇や舌が腫れる蕁麻疹や、呼吸困難が起きた人は予防接種は止めましょう。卵アレルルギーの人への予防接種の手順を示した資料もあるようですが、まだ手に入れていません。

 一方、日本のデータでは、麻疹、風疹、水痘ワクチンに含まれる卵白アルブミン(卵アレルギーの主原因)は、1接種当り0.05−0.26ng以下(ngは1gの10億分の1)で、アレルギー検査のプリックテストに用いる量の1/20−1/100以下(皮内反応はさらに量が多い)なので、プリックテストで確かめるより予防接種の方が安全だと言っています。インフルエンザもおそらく同様だと思います。

 37.5度以上の熱のある場合は接種はしません。実は電子体温計の温度に差があり困っているのですが、普通の風邪や鼻アレルギーは問題ありません。

 

子供のインフルエンザにバファリンは使用禁です

 熱が出れば取り敢えずバファリンを飲む。多くの方が実行しておられると思います。確かにバファリンはよく熱を下げ、痛みも止めます。しかし、この成分であるアスピリンは、インフルエンザと水痘(水ぼうそう)で、ごくまれにですが起るライ症候群という重篤な合併症との関連が指摘されており、両疾患の子供(18歳以下)に投与するのは禁忌となっています。

 熱が出たときの常備薬としてバファリンを使うと、インフルエンザや水痘と気付かずに使ってしまう危険性があります。おたふく風邪や手足口病で痛くて食べられない時など、バファリンは痛みを和らげ食事が摂りやすくなるので、症例を選んで使っていますが、子供の常備薬としてはお勧めしません。特に冬の子供の発熱には使わないようにして下さい。

 子供、妊婦さん、授乳婦さんに一番安全なのはアセトアミノフェンです。アンヒバ、アルピニー等の坐薬、最近私がよく処方しているカロナール、皆さんおなじみのPL顆粒の主成分、がアセトアミノフェンです。高熱で、取り敢えず熱を下げたい場合はこれらの薬を使って下さい。

解熱剤はあくまで対処療法の一時しのぎで、時間が経てばまた熱があがります。子供の熱は、下げすぎると次の上がり際に、うわごとを言ったり朦朧状態になることがあります。1度下がれば随分楽になります。あまり下げすぎないようにしましょう。

 

 インフルエンザの症状、経過、治療薬、予防接種の副作用、他の予防接種との順番等、まだまだ書きたいことはあるのですが、毎度のことながらいつまでも発行できないので終わりにします。アメリカの例ばかり出してきましたが、アメリカは毎年、私が一番参考にしている「インフルエンザの予防とコントロールー予防接種委員会の推奨」と題する、A4版(この通信の大きさ)55行(英活字)で40枚以上の指針を初めとし、30以上のインフルエンザに関する資料を発表し、具体的なデータと根拠が示されており、大変説得力があります。あるいは、日本に当てはまらないものもあるかもしれませんが、充分参考に値すると考えています。近々、次号を出したいと思っています。御質問があればお寄せ下さい。

 


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